「15食品365日の食生活」 講談社刊
「作り方のコツ、食べ方のコツ」 河出書房新社刊 より抜粋

 

「1日30品目」の根拠って、何だったの?

ずいぶん前から栄養バランスを考えた理想的な食事として「1日30品目」というスローガンがあります。
これは、厚生省が15年前に制定した「健康のための食生活指針」が原典ですが、昨年政府が発表した「新・食生活指針」からは、何故かというかやっぱりというべきか、「1日30品目」という言葉が消えました。
「どうして? 30品目っていったい何だったの? 必要じゃなかったの?」という疑問が頭に浮かびますよね。

結論としては、30という数よりも、まず何が大事なのかということなのですが、それを踏まえて、何をどう食べればいいのか考えていきましょう。


第一、この30という数字は、新旧の食生活指針検討委員会のメンバーである日本食生活協会の松崎満小会長の発言によると、国民栄養調査をもとに何品目食べれば充分な栄養がとれるかと研究して割り出されたものですが、おおよそ27、8食品を食べている人の栄養バランスがよかったことから、じゃあ、キリのいい数字にということで30品目としたそうです。

最初は、「秋刀魚の塩焼きには大根おろしとスダチを添えましょう」というように、食事のおいしさ、楽しみを増やそうとし、食材に変化を持たせましょうという意味合いを込めた30品目だったそうですが、30という数字だけが一人歩きを始めて、まるで「30品目食べないと、生活習慣病になりますよ」という威し文句のような印象を植えつけてしまいました。
取りあえず30に数を合わせようと七味唐辛子を7品目に数えたという、とても笑えない話もあったと聞きました。

しかしどうやって食品の数を数えたらいいのか、誰もが悩みました。
私は栄養計算するときのことを考えました。水分を含んだ生鮮食品は最低でも10gないと栄養素をカウントできません。乾物は生ものの1/5ですから正味2g必要です。
ということは、青菜に振りかけた摺りゴマや吸い物に青海苔を浮かせても、栄養素としてカウントできません。
その上せっかく体にいい食材を食べても、一日に同じものをダブって食べたら、とても30品目は達成できません。


これでは冷蔵庫の中にはたくさんの使いかけの食材が残ることになるのではないかしら?
こうした声を反映して、2000年の「新・食生活指針」では、数字に神経質になるより食事を楽しんでほしいという観点から、30品目の文字が消えたのだと思います。


 

祥子流「15品目1600キロカロリー」とは

最近の日本人は基礎代謝量は上がり、栄養所要量は下がったといわれています。
基礎代謝量が増えたのは、頭脳プレイを必要とする仕事が増えたことを意味します。
それだけ脳がブドウ糖を必要としているのです。
さらに平均身長が伸びたことも代謝量を増やしています。同じ体重で背が高い人と低い人とを比べた場合、背の高い人の方が表面積が大きいので代謝量が大きいのです。


一方、デスクワークが増え、車で移動することが多い都市生活者の栄養所要量は下がりました。
つまり活動するためのエネルギーは少なくてすむ生活をしているわけです。
私は、教え子たちの食事の栄養の偏りが年々ひどくなるのを見て、辻褄合わせのための食品リストではなく、本当に豊かな食生活のために食材の数を15品目に絞り、一日の摂取総カロリーを1600キロカロリーに納める工夫をしました。しかもこの中には調味料の調理に使う油のエネルギーも含まれています。


まず、人間が生きていく上で最小限必要なエネルギー、基礎代謝量からご説明します。
これは年齢、性別に関係なく、心臓を動かし、肺呼吸や体温維持、腎臓の機能などに必要なエネルギーで、寝ている状態を想像するとわかりやすいと思います。


この基礎代謝量は1日1400キロカロリー、それに活動分のエネルギー200キロカロリーを加えた数字が、私の考える健康な食生活のための必要且つ十分な摂取エネルギーです。
ただし、この1600キロカロリーの中味が重要です。
何をどう食べるかの知恵を働かせ、健康な体を作っていかなければなりません。

 


1群から3群までをまんべんなく摂りましょう


私は必要な栄養素を摂取し、おいしい料理として自由に組み合わせて使える食品群として、15品目を大きく3つに分類しました。
この3つの分野からバランスよく食材を選べば、きっちり15種にならなくても問題はありません。
数字を気にするより、おいしく気持ちよく食事をすることのほうがよっぽど大事なのですから。


まず、なによりも必要なのは、頭のエネルギーになるもの、第1群は炭水化物です。
炭水化物は太るといってダイエットにために敬遠している人がいますが、それでは体全体がペースダウンしてしまいます。
ごはん、パン、うどん、蕎麦、パスタ、どれでもいいから主食をしっかり食べましょう。
その人のリズムがあると思いますから、食べ方は1日3食でも2食でもかまいません。ただし、食べるときはキチンと主食を摂りましょう。


脳は人間の身体でいちばんの大食漢、1日に120gのブドウ糖をエネルギーとして使います。
ブドウ糖は肺から送られる酸素によって燃焼してエネルギーを産みだし、あとは二酸化炭素と水になって体外に排泄されます。
眠っている間も昼間の活動エネルギーより20%低くなるだけで、心臓や肺を動かす指令を出すなど24時間休みなしで働いているのです。


第2群は体のもととなる血や肉を作るたんぱく質で、肉、魚、卵、乳製品などです。
必須アミノ酸からいえば、植物性たんぱく質の大豆食品である豆腐などからも摂れますが、豆腐は副菜になりがち、毎日では飽きてしまいます。
動物性食品の方が効率がいいし、煮物と揚げ物というように調理法を代えることで変化もつけやすいので、やはりしっかっりと主菜でたんぱく質を摂ってほしいところです。


そして第3群の野菜、芋、きのこ、果物、海藻などは、体の調子を整えるために必要な栄養素のミネラル分です。 
この他においしさを作る食品として、「さ・し・す・せ・そ」の調味料が5種、調味料なしにはおいしい料理は作れませんので、砂糖、塩、酢、醤油、味噌が欠かせません。


そして忘れてならないのが油分。動物性脂肪のベーコンやバター、マヨネーズ、植物オイルなど、油なしにはおいしい調理はできません。これらの脇役も塩以外にはエネルギーがありますから、祥子流のおいしい食生活には、きちんと1600キロカロリーの一部としてカウントしてあります。


<食品摂取基準量>(1日約1600kcal)

 


主食対おかずのエネルギー比は2対3


私が主食としてお勧めするのはごはんです。それはごはんに含まれている炭水化物の割合がパンやパスタに比べて高いからです。
大人の脳は、1日120gのブドウ糖を必要とします。血液中に含まれるブドウ糖は5g、そこで食物から摂ったブドウ糖をグリコーゲンに代えて肝臓に蓄えておくのです。
肝臓で貯蔵できるブドウ糖は最大60g、多きめの茶碗1杯分ですから、120gのブドウ糖を効率よく脳に運ぶためには、1日2杯のご飯。
さらに体を動かエネルギー源を考えると、あと60gのブドウ糖が必要です。

ごはんが優れている理由は、もう一つ、塩分を全く含んでいないことです。うどんもパンも塩分の高い主食ですし、パスタそのものは塩分が少ないものの、茹でるときにかなりの塩を入れることをご存知でしょう?
主食の穀物、炭水化物を2,おかずから摂るエネルギー3という比率は、1977年アメリカ上院の「栄養と人間ニーズに関する特別委員会」のレポートによるものです。
日本の食事の基本は一汁二菜のごはんを主食とする献立で、この2対3の比率の相当する理想的食べ方なのです。


 

野菜は肉の倍量食べる


ごはんよりおかずをたくさん食べる欧米型の食生活になって、残念なことに生活習慣病が若年化しています。
肉のおいしさを知ってしまった以上、生活習慣病にならないような食べ方を考えなくてはなりません。そのルールが、野菜を肉の倍量食べようという提案なのです。肉や魚、卵などの動物性たんぱく質の食品を食べても、その倍量の野菜類を摂れば、食物繊維の働きでコレステロールの過剰摂取が抑えられ、カリウムを充分に摂ることで塩分過剰にならずにすみます。それに、食物繊維をたくさん摂ると腸の掃除をして便通をよくしてくれますから、老廃物を体にためこまず、大腸がんの予防、肥満や糖尿病の予防にもなります。

さらに野菜には、ビタミンC、ベータカロチン、リコペン、ポリフェノール、含硫アミノ酸など、がん、血栓、高血圧を予防し、体が酸化(老化)するのを防ぎ、免疫力を高める、アレルギーへの抵抗力がつく、などの有効成分が含まれています。
実例を挙げると、トンカツ屋さんの一般的な盛りつけには、豚のロース肉1枚(100g)のトンカツに、キャベツの葉1枚分(50g)の千切りとトマトのくし形切り2個(50g)にパセリを添えてあります。このままでは肉と野菜は同量です。これにじゃがいも小1個(100g)のポテトサラダを加えることで、食物繊維、カリウム、ビタミンCなどが培近くに増えます。食べるとき、野菜からさきに片づけて肉を少しでも残すようにすれば、さらにヘルシーでカロリーダウンにもなります。