平成25年度北九州市婦人団体指導者研究集会 「料理は自立の第一歩」 2

 

マクガバンレポート

 1977年アメリカでマクガバンレポートが出されます。今年、ユネスコの世界無形文化遺産に和食が登録される見通しとなりました。日本の人たちが一汁三菜とご飯という食べ方を一般庶民が今も継承しているということで、世界遺産に登録されることになったそうです。
 その根拠は、このマクガバンレポートにあります。ベトナム戦争が終わった年、1968年にアメリカ合衆国の上院で、あまりに国民の健康状態がよくないので、アメリカ人に必要な栄養を考えるプロジェクトができました。それから10年間にわたって研究されたのですが、結果としてすべての原因は食べ物に基づくということ、健康でいるのも病気になるのも食べ方次第だということが分かりました。
 アメリカという国はこういうことに関して、大変な時間と人手をかけて研究するのです。世界各国の国民健康栄養調査のデータも調べ上げ、人間の体ができているように食べ物を食べていけば、健康な体を維持できるという結論が出されました。その時のお手本になったのが、1975年の日本の国民の健康栄養調査でした。それで、日本型食生活、和食のことが世界に冠たる健康な食事であると認められるようになりました。今度のユネスコの世界文化遺産登録もこれが基になっています。

 

1996年飛び始めました

 日本は一転して、高齢化になり、少子化になり、そして単身世帯が増加しています。社会は変わってきました。私は1996年に飛び始めました。福岡に家を構え、福岡で手渡しのようにして簡単で早くできるお料理を伝えてきました。福岡の中ばかりで完結していたのですが、こういう地味なことはもっと中央に出て、中央から全国に発信したほうがよいのではないかと思い、なけなしの貯金をはたいて飛ぶようになりました。そしたら、親友が「祥子ちゃん、やめなさい。その貯金で豊かな老後を送った方がよい。一緒に旅行にも行きましょう」と言ってくれたのですが、「止めないで。私は勝ちいくさにするからね」と言って、東京に行くことに決めました。
 うまくいくかどうかわからなかったのですが、本人は根拠のない自信があって出かけていったのです。一人で仕事をしていますが、会社のスタッフを維持していかなくてはならないので、猛然とよく働きます。今朝は3時に起きて、仕事をしてから出てきました。ダイアリーでご覧の通り、日々仕事で埋まっています。

 

三歳児の食育料理教室

 私は「三歳児の食育料理教室」をしています。この写真は福岡の教室ですが、東京と隔月で開催しています。2001年からスタートして、東京の教室の第一期の卒業生は中学3年生になりました。福岡の最初の卒業生は中学一年生です。3歳というのは一つのことをしたら次は何?またそれをしたら、次は何?とステップを上がっていくのが、精神発達上の特徴です。大根を見せて切りますと、次は何?というので、ニンジンを見せます。ニンジンだ!と喜びます。そしてニンジンを渡すと、子どもはジャンジャン切っていきます。このように作業を通して食育を刷り込むと、自分で切って食べて噛みしめた味が分かっていきます。ご飯の食べ方がきちんと身に付きます。噛みしめて食べることも身に付いていきます。この仕事を始める時に、ネットでよさそうな子ども包丁を買いましたが、手がすごく切れます。子どもは刃を簡単に触るのです。触っても切れない、でも料理ではよく切れるという包丁を岐阜県のメーカーに頼んで作りました。その時に2000本でないと作ってくれないというので、亭主に2000本も子ども包丁を…と難色を示されました。そこで、「私に何かあった時はこれを形見分けにしてください」と頼みましたら折れてくれました。実はこれは学研の幼稚園事業部で発売されていますが、後は私の教室で使うために作りました。子どもに持たせると、猫の手なんて教えなくてもどんどん切っていきます。子どもは切るというのが大好きですね。切ることができれば料理はできます。。

 

梨花女子大学 「うま味とだし汁」の講義

 韓国の梨花女子大学の学生さん30人が2013年の夏休みのサマーカレッジに、福岡女子大学に交換留学で来ました。この学生さんたちは見事な英語を話し、独立心をもっています。福岡女子大学の学長の考えで、海外に出て自分で仕事ができる学生を育てようということで、夏休みに寮が空いた時に韓国から呼んで学習させる。終わったら、日本からも一緒に行って韓国の文化を勉強するという交流をしています。そこで「日本のうま味とだし」についての講義を頼まれ、和食を教えました。最後に肉を出してすき焼きを始めたら、学生さんは肉だと言ってとても喜んでいました。写真にカメラマンが写っていますが、彼らにまさか実習で作ったものを食べさせるわけにはいきません。そこで、朝からカメラマンたちのお弁当をつくっていきました。夏ですから「気をつけて食べてくださいね。あやしかったら処分してください」と言って渡しました。

 

糖尿病予防・改善教室

 また、「村上さん、こんなに食べていいんですか!?作りおきで楽うま!糖尿病予防・改善教室」、年末には「2時間でできるおせち料理10品&スペシャル博多雑煮教室」なども企画しています。このように、従来の教室のほかに「電子レンジで簡単にできますよ。自分で作って食べたらおいしいし、材料もわかりますよ」ということをお伝えしています。
 また、日本栄養士会主催の全国各県の栄養士会に、保健指導セミナーに行っています。2013年秋は「専門職の食と栄養に関するセミナー」に行きました。
 次の写真の福岡女子大学主催特別講演会「ちゃんと、ごはん」のときは、三度のご飯をコンスタントに食べるためのシンプルな取り組みをお話ししました。この時はたまねぎ氷の実演をして、スムジーを皆さまにお出ししました。
 病院の給食の支援にも入ります。宮崎の都城の病院に2年間通ったのですが、朝5時の高速バスで9時30分に宮崎に入り、夕方の4時30分まで教えて高速バスに乗って帰ってくるという一日仕事です。支援の内容は、入院患者の高齢化が進んできたため、病院給食をおいしくて飲み込みやすく、噛みやすいものにするというものでした。結果、寝たきりだった患者さんが起きられるようになり、起きて食事がとれるようになると、次は車いすに乗れるようになる、という成果があがりました。食事次第で、こんなに変化があるものかと思いました。

 

「食べ力(ぢから)」には料理力の応援が必要

 食べ力を持つことで、皆さんが健康な人生を送れるようにと思っていますが、年齢に合わせた料理力の応援も必要です。
 料理をしない人も、外食・中食のものをどのようにチョイスするか、そして足りない野菜だけをレンジでチンとして食べれば十分、ということを伝えることも必要だと思います。
 赤ちゃんにも食べ力は必要です。『電子レンジでらくチン離乳食』という本になっています。赤ちゃんが大きくなったら要らなくなりますので、アマゾンの中古本にも出ています。出版社の重版が間に合わなかったこともあったのですが、1冊1200円の本が中古本で4500円になりました。出版社はとても喜びました。先日博多駅で、かわいい赤ちゃんを抱っこした女の人がにこにこしながら私の前を通って行きました。向こう側から二組になって戻ってみえて、「村上さんの電子レンジの離乳食でこんなに大きくなりました」と赤ちゃんを見せてくださいました。
 「三歳のお料理教室」では、大人の方は手出し口出し無用に願いますと言っています。私の頭越しに、お母さんやおばあちゃんが「そこはちゃんと切って」「頑張って食べて」と指示を出します。が、黙っておくに限ります。愛情が溢れすぎると、学習になりません。
 それから、マンツーマンのレッスンもしています。この写真のお嬢さんは小学1年生でしたが4年生になりました。一昨日も来ていましたが、このごろはテキストがすらすらと読めるようになって、フォカッチャを焼いて帰りました。高校生の男の子はアトピーがあるので、お弁当を教えてくださいと言われました。お母さんが働いているからです。次の写真のお嬢さんは医学部の方で、お医者さんになるからこそ、食のことが分かっていたほうがいいだろうという考えから始められました。それから社会人の方にも、自分で作って食べるためのいろはを教えています。妊婦さんも食べ方次第で、おなかの赤ちゃんの発育状況が決まりますから大切ですね。また、自立を促すために男性にも教えていますが、博多のちらし寿司をやりたいといって来られたこの写真の方、おいくつだと思いますか?85歳です。背もきっちり伸びていて、どうみても65歳でしょう。ちゃんと食べるということは、こんなに体を整えることができるのかと私の方が驚きました。お料理が達人というわけではないのですが、男性は力が強いので切るのも早いです。とてもお元気で、東北の支援にも行っておられました。
 根っこは全部、食べ力です。食べ力は人間の体をつくります。
 宇宙の始まりはビッグバンによるもの。その時のエネルギーのかけらが太陽です。その太陽のエネルギーが地球に降り注ぎ、強い太陽光線がある間は、地球の生き物は全部、水の中に潜んでいました。40億年くらい前から宇宙にオゾン層ができました。オゾン層が紫外線を吸収してくれるようになり、はじめて生物は海から出られるようになりました。最初は藻類、節足動物、最後に脊椎動物が上がりました。それが3億年前の話です。それからどんどんと進化していって、今の人間の体になりました。淘汰が進み、本日お集まりの皆さまは大変強い健康な遺伝子を持っている方たちです。指先を切ったときなど血を舐めるとしょっぱいのですが、これは海の中にいた痕跡といわれています。お吸い物をつくる時も、血液の中の食塩濃度0.9%に合わせるとおいしいなと思うおつゆができます。
 では、体をつくる成分をお目にかけましょう。『料理でわかる不思議、びっくり!?』という河出書房新社のムラカミの本から抽出しました。先ほど、マクガバンさんという方の話をしました。日本人の食べ方が理にかなっているという話も出ましたが、体をつくる成分というのは60%が水なのです。コメは乾物で中の水分が15.5%です。水を入れて炊き上げると、玄米だろうと麦ごはんだろうと精白米だろうと全部、水分は60%になります。そこで始めて食べられる状態になります。私たちが食べやすいのは、体の中の水分量と同じになっている場合です。体から水分を引いた残りの40%は、タンパク質、脂肪、カルシウムその他の栄養成分で体はできています。山中で迷ったときでも、何がなくても水だけ飲んでいたら何とか生きられることになります。人間の体は10万種のタンパク質で、60兆の細胞からつくられていますが、その基をつくっているのは20種類のアミノ酸だけです。これは植物の中にも、動物の中にもあるのですが、私たちの体というのは4本足で歩いていたのが2本足になったのですから、動物の構成のアミノ酸を食べたほうが、実は効率よく体をつくることができます。
 生き物というのは、養殖するにしろ、育てるにしろ、限りがあります。牛肉1kgをつくるには、10kgの穀類が必要です。肉ばかりでタンパク質を摂取するのは、天然資源からみると効率が悪いのです。穀類を食べ、肉を食べ、豆を食べ、そして卵も食べることにしましょう、というのが本当のところです。
 先ほどのマクガバンレポートに戻りますが、世界で健康食と認められている日本食は全体のエネルギーを100とすると、タンパク質は15%、脂肪が25%、炭水化物が60%で構成されています。この食べ方がよいと言っているのですが、これは38年前の1974年ですから、ずいぶん昔の話です。私たちの人口構成は年齢が上がっています。年齢が上がったら、自分で自分の体を支えるためには、もっとタンパク質を摂る必要があります。このフードピラミッドはアメリカ人の食事の説明です。一番上の油脂やチョコレートは少なくしましょう。一番下の炭水化物はたくさん食べましょうといっています。
 1985年、私が福岡女子大学に就職した年ですが、その年、厚生労働省と農林水産省より発令された「健康作りのための食生活の指針」では、目標1日30品目食べましょうと言っていました。本日は食生活改善推進員の方たちも多数ご出席されていますが、当時、食生活の目標は1日30品目という講演会をして県下を歩きました。考えたら、1日30の食品を食べるというのは、1日3食食べるとしたら、朝昼晩と分け、朝食で10、昼で10、夜で10の食品を食べなくてはなりません。そうしたら、一人暮らしの人は冷蔵庫の中に残り物がいっぱいになります。説明しながらナンセンスだと思いました。要するに、バランスのよい食事の摂り方という話です。その頃は、30品目に満たないときは七味唐辛子をふって7つ足す、みたいなことをしていました。ごまをパラリ、青のりパラリということもありました。1日30品目には基本の考え方があります。乾物は2g以上とることで1つと数えます。ごまだったら2gって相当ありますね。これに水分を含ませると5倍になり、10gになる。そしたら食品の成分値が出てくるという計算です。これはなかなか成果が上がらず、2000年になって「健康日本21(第一次)」が作られました。野菜は肉、魚、卵、豆の2倍食べましょう、ということがいわれています。食事バランスガイドでは、1人一日タンパク質食品は150〜175gを理想としています。その2倍で、野菜は350gとなります。食事バランスガイドは1975年代の国民健康栄養調査が基本になっています。実は、高齢化の進んだ現在、たんぱく質の量が少ないのです。卵1個50gを一つとカウントします。朝、お豆腐の入ったおみおつけを食べ、卵でご飯を食べ、時には鮭の焼いたのを食べて、としていませんか。そうすると、これで一日分を越えています。本当は実情にはなかなかあっていません。