食は命なり

Link Club Newsletter 4(2003.04)より転載

食は命。それがすべて。

電子レンジで発酵させるパンから病気治療食、子供達への食教育「食育」など、さまざまな食のあり方を生み出していく村上さん。
自宅のある福岡と東京に料理教室を持ち、毎週往復するという超多忙な「空飛ぶ料理研究家」でもある。
取材に伺った村上さんの東京オフィスは、まるで図書館の書庫のよう。
分厚いファイルは4000冊、レシピは27万件あるとか。
そんなパワフルな村上さんの食への思いを伺った。

SACHIKO MURAKAMI
福岡県生まれ。
福岡女子大学家政学科卒業。
料理研究家。管理栄養士。
東京と福岡でクッキングサロンを主宰し、テレビ、出版、商品開発、講演など幅広く活躍中。

 

2男1女を育てた経験から生まれたシンプルで分かりやすい料理法、豊富なレシピ、家庭料理の味と、それを科学的に実験データで裏付けていく独自のやり方は、各方面から注目され、高い評価を受けている。
著書に『ママと子供がハマるお料理手品』『ムラカミ天然酵母パン』『村上祥子の電子レンジクッキング・わっ、おいしい!人気のレンジおかず』などがある。

 

フリークファイル 村上祥子

 

__膨大な数のファイルですね。

 

ここにある27万件のレシピは自分でこつこつと作りました。
膨大な時間と熱意とお金がかかってるんですよ。
他の先生のレシピ本はこれはと思うものは作ってみます。
もちろん学ぶところも多いのですが、ビギナーには作りにくい…と思うことも。


作り手の器量によってはその通りには作れません。
また、必ずその人流にアレンジされてしまうのですから。
ほらほら、できた!って楽しい思いをさせた方が勝ちって思うんです。
私は、食とはボランティアだと思っているの。
お役に立つかどうかが一番の問題。


調理台に置いて、立ったまま読みながら作れる本を作りたい。
デザイナーさんたちはデザイン本位に走りがちだけど、そんなのは断固反対!!
使いやすい本にしてください、って言うの(笑)。
私はただ食べるための料理の本を作りたい。
食べるということは生きるということ。


生きるために役立つようにと思って作りためたレシピなんです。
だからやっぱりこれもボランティア(笑)。

 

__家事、本の出版、福岡と東京での料理教室、講演、取材など、人並み以上に多忙な村上さん。
そんな中、オリジナルドメインを取得されてホームページを立ち上げられたことで、活動や生活にどんな変化がありましたか?

 

ホームページを立ち上げたのも食べることのお手伝いが少しでもできればというボランティアの気持ちから。
ホームページに送られてきた質問には全部返します。
返さないことはないです。
わからないことはわからないって返す。
意味不明だなと思うことは電話で詳しく聞く。

私本人がかけるんですからみなさん驚きますよ。
で、その方が「あ、うまくいった!」というところまでお手伝いできる。
そうしたいっていうのが私の本心なんです。
本やお教室もそのためです。

アメリカのウェブサイトもありますが、そこは一ヶ月に12万件も来てます。
今、アメリカはすさまじい肥満社会。
これも何か手立てがあるかも知れないと思ってサイトを作ったんです。
担当者がそれぞれいますが、原稿も全部自分で書きます。
今、メールじゃないと出版社もお呼びじゃないでしょ。

だからパソコンは早く導入しましたよ。
在宅の勤務の人にも貸しているから20台くらいじゃないかしら。
社員一人が増えたら一台増やすし、パソコンは古くなったら処分して新しいものに替えます。
プリンターもどんどんよくなっていくから大変ですよ(笑)。

 

__え!?メール返信も本の原稿もご自分で!?そんな時間はあるんですか?

 

私、毎日20時間働くんですよ。
1年休みなしの365日。4時間は睡眠時間です。
人並みの仕事量であれば人並みにしかなれない。
自分でいうのもなんですけど、この年令でしっかり仕事をやろうっていう覚悟はたいしたもんですよ(笑)。

先週は3冊単行本作ったの。で、今週1冊。
すごいピッチで作っていきますよ。
福岡までマスコミは飛んできてくれるかなと思ったけど全然来ないでしょ。
だから東京に行くしかない。

みんながお体を大切にとかいうんですけど、大切になんていってたら仕事にならないと思う。
出版社から話をいただいた時がその本の旬なんだと思うんですよ。
だから5月に出したいとおっしゃれば絶対間に合わせますよ、どんなことがあっても。
でも私は徹夜なんか絶対にしない。
ちゃんと睡眠を取るし、12時をこえない。
自分の限界っていうのは長い人生の中で分かってますから。

電子レンジはおいしくないという固定概念を壊してくれた先生の本。
電子レンジを調理に使ってみようと思われたのはなぜですか?

私ね、電子レンジが上手になったのは、人に教えたからこそであって、うちの中だったら「ああ、やり過ぎた」っていう程度で終わってると思うんですよ。
でもあるとき、管理栄養士養成の大学の先生として、これは成人病の治療食にぴったりなんじゃないかと思ったんです。

退院後の患者のケアってものすごく大変なんですよ。
かなりの人がリバウンドして戻ってくる。
厳しすぎて自分ではできない。
油は使うな、調味料は控えろ、でしょ。
でも電子レンジなら油使わなくても焦げ付かないし、調味料がなくたっておいしくできちゃう。
だからおうちで予防するためにピッタリだって思ったんです。
それに栄養士が病院で教える時や保健所で指導する時にもいいんじゃないかと。

電子レンジはどこの家庭にもありますから。
私の教え子は官公庁、病院などに就職していくことが多いですから。
去年まで15年間大学で教えました。

今では文部科学省の小中学校のテキストにも私の電子レンジクッキングは取り入れられていますよ。
親が朝食抜きの習慣のとこだと子供も食べさせてもらえない場合が多いでしょ。
じゃあ、子供は自分で作って食べればいいじゃないっていうのが文部科学省のお考えなんですね。
私もそれでいいと思う。
レンジで3分の朝御飯でいいと思う。できたてはおいしいんだもん。

 

村上祥子

 

__現代の子供達に食の大切さを伝えようという食教育、「食育」。


しかし実際、村上さんの考える「食育」は、子供達にではなく周りの大人たちに伝えたいことだそうですが。

この前、子供達と料理をしながらの撮影があったんですけど、子供達ってほんとハチャメチャ。
でも子供がいるだけでみんな笑いに包まれるでしょ。
子供達は撮影のことをすっかり忘れて料理に夢中になっちゃって。
料理って楽しい!って。とてもかわいかったですよ。
私もすごく楽しかった。
今、そういうことを忘れていませんかね、日本は。

大人社会で、おませな子供がいて。
大人は失敗する前に転ばぬ先のつえを貸そうって思う。
でもほっときゃいいの。本人は楽しいんだから。
子供達がすることに口出さなくていいの。
大人は食べる環境を整えてあげればいいだけ。
ごちそうでなくてもいいの。
おうちの中では炊きたてのご飯とお味噌汁があればいいと思いますよ。
それが簡単にできるということを伝えたい。

先生の食にかけるエネルギーはなみなみならない。
その原動力はいったいどこから?

食は命。それがすべてです。
私、死にかけたことがあって、10回大きな手術を受けました。
だから私は心底死ぬのが怖いと思ってるんです。
よく、「いつ死んでもいい」とか「長く生きたくない」とか言うけど、私はそう思わない。
非常に恐ろしいですよ、自分が灰になるということは。 良くも悪くも、食べることによって身体は構築される。
食べて生きられるんだったら私は健康を取り戻した今、「食は命」ということを伝えられたら…。
私の思いはそれひとつです。

 

__いろんな本を出されて、いろんなアイデアを生み出してきた村上さん。


今後はどんな活動をしていくのでしょうか?

最終的に「健康な食べ方」っていうのを伝えたい。
そしてこれからも私がこれはおひとの役に立つと信じていることをやっていきたい。
やっぱり、食育をやりたいんです。離乳食もやりたいんです。
そしてお年寄りが独りでなんとか食べようというところまで持っていきたいんです。
このすさまじい高齢化社会だけど、お年寄り同士で支えあってほしい。
1人分ていうのは億劫が先に立ちますし、目安がつかない。
離乳食だって電子レンジで30秒でできる。
それなのになんでそういう本がないんだと思う。
で、そういうのを作りたいと言っているうちに、何かヒットさせないとやらせてもらえないので、電子レンジ料理をやったんです。
その次が30秒発酵のパン。
で、今度は天然酵母のパン。
そうしてようやく、「村上さんてすごいクイックなんだけど、スローフードのひとなんだ」とみなさんが気がつきはじめてくれた。
そうなるまでに5年かかったわけだけど、今ようやく地味だけど大切な仕事ができるようになってきました。
「健康な食べ方」って大人が次の世代に伝えられる一番息のながい贈り物だと思うから。

 

__ありがとうございました。